感想日記

演劇とかの感想を書きなぐってます。ネタバレはしまくってるのでぜひ気をつけてください。

『メアリ・スチュアート』

2020/02/06
世田谷パブリックシアター
14:00から 3FA列29
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※ポストトークあり
登壇者...森新太郎、長谷川京子
シルビア・グラブ吉田栄作三浦涼介
(敬称略)

ほとんど同時期に赤坂RED/THEATERで
ダーチャ・マライーニの『メアリ・ステュアート』が公演されてますが(たしか2人芝居)
世田谷パブリックシアター
U24A席の方がチケット代が安かったので
こちらを観劇しました。
森新太郎さんが演出だしね。
メアリも観たいけど他の作品も観たいんです。
というわけでチケット代はネックです。
(本心言うと見比べたかったです。メアリ。)
ちなみにこちらはシラー版。
『群盗』とか世界史の教科書に乗ってますね。
あの作者です。
他にも『オルレアンの少女』『ウィリアム・テル
エトセトラでいっぱい書いてます。
単純にこの辺りの時代の
歴史が好きなだけかもしれないですこの人。
(上演台本はスティーブン・スペンダーのやつらしいです)

というわけで内容はゴリゴリの歴史劇なので
イギリスのこの辺りの歴史
少しでもかじっていると理解がはやいです。
全くないと、最初少し眠くなるかもしれないです。
それでも日本語なのでまだマシです。
NTLiveの『英国万歳!』はきつかった。
マーク・ゲイティスが出てくるまで
特にやばかったです。
閑話休題

歴史劇だからこれまたゴリゴリの
古典っぽい感じで来るのかと思ったら
まず客席入ってびっくり。
舞台が張り出してます。
舞台真ん中から歌舞伎の花道みたいなのが
客席中央あたりまで伸びてます。
階段もついてます。能舞台の階(きざはし)か。
なんならそのまま地下にはけられるようになってます。
なんじゃこりゃ。
舞台の上にも穴が3つ空いてて
全て同じように下に階段ではけられます。
世田谷パブリックシアターって
地下あるんですね...何回か来てますが初知りです。
それ以外に大掛かりなセットは
途中で出てきた木のオブジェ2つ以外
特になかったです。
シンプル故に、イメージ豊かな舞台空間でした。
まさに『なにもない空間』です。
エリザベス役のシルビア・グラブさん曰く
「私がいちばん大きい舞台装置」だそうです。
たしかにあのドレスはヤバい。肖像画まんま。
さすがです。

セットもほとんど無く
なんなら鉄骨までさらけ出すレベルで
色々とっぱらって空っぽにした舞台。
一見前衛的にみえますし
ミュージカルとか見慣れてると前衛的なんですが
よくよく考えてるとシェイクスピアの時とかは
セットなんてほとんどなかった訳で。
歴史は巡るってやつですかね。

となると気になるのは俳優陣の演技力です。
セットがない訳ですから。
正直に言うと
メアリ役の長谷川京子さんちょっと不安でした。
ネットとかでよくね...ほら...(濁す)
他の方々は実力派揃いですし。
キャスティングみてチケット買ったんですけど
長谷川さんとにかく美貌と存在感はあるだろうし
この間『豊饒の海』も
(今不倫騒動で話題の
背の高いあの人がメインキャストです)
なかなか面白い舞台で
演技云々は気づかない程度だったので
それを信じてポチリ。
そして私はギャンブルに勝ちました!やったね!

というのも、これメアリが主人公
ではないんですね。厳密には。
そうやって言い切るにはあまりに
メアリの登場シーンが少なすぎる。
そしてエリザベスが出るわ出るわ。
あとレスター(吉田栄作さん)もね。
バーリー(山崎一さん!)もかな。
モーティマー(仮面ライダーオーズ/OOOの人...じゃなくて三浦涼介さん)もですね。
3時間越えの舞台ですが
メアリ・スチュアート
1時間出演してたかどうか怪しいレベルです。
セリフ量も圧倒的に少ない。気がする。
これ恐らく、どころか群像劇です。
もちろん彼女の人生を主軸に描く意味で
メアリ・スチュアート』なんですけど
たぶん、正しく表記するなら
『「メアリ・スチュアート」』もしくは
『"メアリ・スチュアート"』です。
つまり、周りの人々がメアリを呼ぶ声、
あるいは"という女がいた"という意味です。
これはほとんど出ずっぱりのハムレット
題名が『ハムレット』であることなんかとは
全然違う(ある意味では一緒ですが)
そういうニュアンスを持っています。

要するに、この劇は
メアリ・スチュアート本人の物語というより
彼女に関わった人 、関わったことで
人生が変わった人
恋した人
死んだ人
嫉妬した人
恐怖した人
ありとあらゆる彼女に翻弄された人々の物語
と表現した方が私的にはしっくり来ます。
恐らく、"メアリ・スチュアート"とは
ある時代、ある時点において
イングランドという国全体に
覆いかぶさった1つの夢みたいな存在なんだと
そう感じました。
それが夢で終わるか、そうでないか
はたまた人を追い詰める悪夢になるのかは
それは分かりません。
ただ、常に頭の片隅にある
舞台に実体として居なくても強烈に存在する。
そういう意味で
圧倒的な美貌と存在感という点では
長谷川京子さんは
ハマり役と言ってもいいと思いました。
美貌は役者にとって武器です。
もちろん普通の容姿、個性的な容姿も
武器にはなりますが
サロメ』同様、このメアリも圧倒的な美貌が
前提条件なので。
よく、ネット上で「棒演技」なんて
言われちゃってますが、個人的に言えば
厳密には声質の問題が大きいと思います。
声に特徴がある方の演技評価って
結構両極端なんですよね...。
この方の身体の動きはちゃんと舞台向きでしたし
"公の場では自分の感情を露わにすることを良しとされない、貴族としての理知的な言動"としては
感情を極力抑えたような話し方は
とても良かったと思います。
狂気的なシーンはこの前のブログにも書いたけど
結構皆さん上手くできるんです。
たぶんド素人でも。
色々見てるとなんかそんな感じします。

残念だったのは冒頭。
過去の幸せな日々を語る時
全然そのイメージが立ち上がってこなかったので
乳母に対して「みえる?」って問いかけているのが
ちょっと説得力にかけるかなあ
と感じました。
シェイクスピアとかでよくあるやつです。
まあこのへんは、これからってことでしょう。
あとは、他の方々との絡みのときに
声量にやや難アリ、ぐらいですかね。
庭で遊ぶような少女じみた演技は
とても良かったと思います。
上擦ったような、鼻に抜けるような声が
とっても合っていました。
案外、前にあげた問題点の克服が出来たら
ジュリエットとか似合いそう...。

モーティマー(三浦涼介さん)は
ちょっとミュージカル調な印象を受けました。
滑舌が良すぎるのかもしれません。
あと雰囲気ですね。どっちにしろ長所です。
あのセリフ量をずらずら言えるのはすごい。
声も迫力がある。
文句なしです。
首切って死ぬシーンも良かったですね。
すぐに絶えるんじゃなくて
筋肉とか痙攣する感じがリアルで
大量出血がみえました。
(血糊は使ってません!すごい!)



...なんだか、今回は話自体はよく知られたものだし
演出もシンプルなので
演技についてばっかり語ってますね...。



では演出に関連して
レスター(吉田栄作さん)行きましょう!
世渡り上手の口達者で、女たらし?な役どころです。
自分が生き延びるためならなんでもする。
トレンディドラマで人気を博した
あの雰囲気、というか演技を
逆手にとった感じでした。
表向きは紳士なんですが
本当はとっても即物的で俗っぽい。
あえて格好つけている格好悪さと言いますか。
その格好悪さがいつもどこか露呈しちゃう。
そんな役どころです。
メアリがいよいよ処刑されるぞ
という場面で
メアリ退場後に一人語りがあるんですが
その一人語りではじめて
自身の内面をふりかえって後悔するんです。
(つまり根はいい役です)
それで、"色々な人を裏切って騙して
結局ここまで来てしまったんなら
それを貫いてしぶとく生き抜いてやる!"
って境地まで達するんですが
その後、メアリの処刑される様子
(厳密には、"メアリの声が聞こえる...聞こえなくなった"、みたいな感じで"みて"はいないんですけれど)
を語る時に、びっくりしました。
額縁舞台になっている部分の
上手上部から下手下部にかけて
灰色の薄いレースが
メアリ処刑へと流れていく関連全シーンで
かかっていたんですけど
レスターが処刑描写を始めた瞬間
ギロチンだ!って直感的になりました。
今までレース?ってなっていたのに。
この舞台、一人語りは限られた人しかしてないので
ここは圧巻でした。
メアリの処刑されるシーンを残酷に
目に見えるように演出するのではなく
俳優の、言葉をイメージとして立ち上げていく
そういうふうな力を
信じたシンプルな演出。
素晴らしかったです。

エリザベスに関しては
エリザベス女王』だっけこのお芝居?
と途中で思ったぐらい魅力的でした。
メアリが感情を抑えているのだとしたら
エリザベスはちょっとヒステリックでコミカル。
ただコミカルといっても
彼女の本当の思いはバーリー(山崎一さん)の
一言に溢れています。
「民衆の声は、神の声です!」

彼女はこれを痛いほどわかっていたんです。
だからあくまでも国民を
つまり、簡単にお偉いさんとかの一言で
意見を翻し、自分で考えることを放棄している
そんな民衆のことを
いつも考えておかなればならなかった。
いつも民衆のためにあらねばならなかった。
そして女王とは、君主とは
そういう存在だと、彼女は自覚していました。
だから民衆に強要されて
彼らのために、彼らの国のために
自分も、自分の周りのもの達も
たとえ犠牲にするしかなくても
そうせざるを得ないことを知っていた。

メアリの処刑を、まがりなりにも済ませたあと
ありとあらゆる旧友ともいうべき
側近貴族たちが去っていって
一人、鉄骨すらむき出しの空の舞台で立ち尽くす
そんな女王をみて
たぶん多くの観客が
"暗転するな"と感じたはずです。
なぜならこれ以上は語る必要が無いからです。
孤独な女王は
だれも心のそばにおくことが
ついになかったからこそ
国を長く統治できたことを
私達はもう知っているからです。
君主は全てを手に入れる代わりに
誰よりも孤独なのです。
『リチャード二世』が気づいたように
君主になるということは
安らかな眠りを失うことです。
その絶望を語るのは無粋です。
だから暗転しかない。音楽すら流さない。
と言うよりむしろ、流せないんだと思います。

この舞台は2人の女王のうち
どちらかが悪いやつだ、と
簡単に割り切ることができません。
どちらにも感情移入してしまいます。
メアリに同情するときは
エリザベスが悪いやつで
エリザベスに同情するときは
メアリが悪いやつに感じます。
場面場面で切り替わっていくから面白い。
そして本当に
お互いがどう思っていたのかは
今では想像することしかできない。
すべては時代の流れに覆い隠されて
正負どちらなのかぼんやりしています。
舞台に空いている地下に続く階段みたいに
奈落に落ちてしまったから
みえなくなってしまうのかもしれません。
セリフのなかにもありましたが
少し運命が違えば
メアリがエリザベスの立場に
エリザベスがメアリの立場に
そうなっていてもおかしくありませんでした。
そういう意味でもこの2人の女王たちは
切っても切り離せない関係なのだと思います。

いずれにせよ、普段歴史劇って苦手なんですが
(難しいし眠くなる...)
演出も俳優の方々いずれも素晴らしくて
めずらしく楽しめました。
いい買い物をしました。U24ありがとう...。

一つだけ言うとしたら
観客の皆さん、基本的に帝国劇場をのぞいて
客席内での飲食は開演前も開演中も
原則禁止です!(開演中は帝劇ももちろんダメ)
開演中にペットボトルおとしたり
飴の袋ガサガサさせたり
なんかよくわからない物音を盛大にさせるのは
緊急事態をのぞいて勘弁して頂きたいです!
(もし緊急事態なのであれば
しょうがないと思います。
健康と命あってこその観劇です。)
今回多かったように思います。
舞台が沈黙の時とかにやられると
お金返して!ってなっちゃいます。
劇場の雰囲気は全員で作る1回限りのものです。
素敵な観劇にするためには
最低限のマナーを守ることを心がけるのが
1番大切な第一歩だと思います。

【追記】
公式Twitterにあがっていた、舞台の写真です。
曲がってたので軽く編集済みです。
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