感想日記

演劇とかの感想を書きなぐってます。ネタバレはしまくってるのでぜひ気をつけてください。

若者のための『Macbeth』

2020/05/22
Youtube
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(画像は全て公式Twitter@The_Globeより)




昨日の『冬物語』がエグいくらい長かったけど、
今度は逆に、どうしたら『マクベス』を
1時間半にまとめられるんでしょうか。
さすがに自由自在すぎませんか?凄すぎる。

"Especially for young people"
(特に若い子向け)

ってことからあんまり長いのはちょっと...
って事だったんだろうけれど、
そもそも若い子向けで『マクベス』って...。
なんで群を抜いて凄惨な劇を選んだんだ...。
ちょっと謎ですね...。
確かにシェイクスピアの中では
フルでやっても2時間ぐらいの
短めな劇ではあるんですが...。

それでもかなり戯曲を
ギリギリまで削ってますね。
登場人物もできるだけ減らしてます。
テンポも速すぎる訳では無いけどかなり速い。

別にそれで劇が崩壊してる訳では無いので、
上手いなあとは思うんですが、
あえてひとつ指摘するなら門番かなあ...。
門番だけがやっぱり、
この凄惨な『マクベス』の中では
かなりイレギュラーなキャラクターだから、
その門番が、"そのままの"格好で
召使いとか暗殺者を演じちゃうのは
"なにか深い意味があるんじゃないの"
なんて勘繰ってしまいます。
観た感じそこまでの意味はなさそうです。混乱。


全体的な印象としては、
かなり等身大のマクベス夫妻でした。
この間のストラットフォードフェスティバルの
"今からはかなり前の、
でもほんとにあったような"
って感じではなく、同時代的です。
(そのためダンカン王の殺害計画が
ちょっとだけ唐突な感じがしなくもない。
現代の夫婦が殺害計画話してるような
もんですからね。怖すぎんだろ)

もともとマクベスって、"きゃ〜カッコイイ!"
って感じのキャラではないんですが、
如何せん現代において等身大的なので、
輪をかけて情けない感じがします。
尻に敷かれてる感が凄いです

そしてなんと言ってもマクベス夫人が妊娠...!
一瞬目を疑いました。マジか夫人。
妊娠...ええーマジか...( ¯꒳¯ )
これはかなり好みが別れると思います。
私は苦手です笑。
でも観たことがなかったので
めちゃくちゃ面白かったです!

個人的には、妊娠によって
前半のマクベス夫人の
自分自身で自らの人間性を否定するように
いっそ魔術的な言葉を吐きながら、
突き進んでゆく魔女的な魅力が
その母性によって掻き消されている感じが
しないでもないです。
そもそも夫人は前半では
"unsex me here"...「女でない」ので、
豊穣と命を感じさせる女性性を
前面に押し出してくる演出は違和感があります。

ただ、確かにこのことによって、
自らに近い存在として彼らを認識できるので
一長一短って所でしょうか...。

途中に流産的な表現があり、
そのことこみでマクベス夫人が狂った、
という体の演出なので、
殺人経験なんてあるはずも無い私達にとっては
より納得しやすいし理解しやすいという...。
下手な人がマクベス夫人をやると、
"どうして急にここで狂っちゃうの?"
って思ったりしなくもないらしいので...。
しかも、今回は信じられないぐらい
俳優さんが"自然に"上手いので、
なんかほんとに血が見えそうだし同情します。
(自業自得なんですけどね)

「若者のための」って目的なら、
ありのよりのありな演出なのかなと思います。
観客の反応も軒並みビビットでした。
俳優さんが観客席から出てきたり、
観客を巻き込んだ演出が多かったので、
"観劇体験をとにかく楽しもう!"って
いう意図も何時もより見えやすかったです。

「若者のための」といえば
マルカムがスクールボーイっぽい服装だったのも
親近感が湧くかもしれません
ダンカン王はそのせいで校長にしか見えない笑。
私、学校ってシステムは
あんまり好きじゃないので、(友達は別です)
おかげでダンカン王がなんか悪者に見える...。
殺されてもあんまりショックじゃないです。
むしろマクベス頑張れってなりました笑。

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戦争の勝利をお祝いするための
この"Congrats"も、それこそ
外国の学校のパーティとかで
なんか見そうな感じじゃないですか?
しかもこの飾りの演出がなかなかに良い...!
戦争勝利を祝う時は"Congrats"(おめでと!)
なんですが、マクベスがダンカン王を
殺しちゃうあたりから、頭四文字がとれて、
"Rats"(鼠)になるんですよ。
コソコソと悪事を働く人の例えですね。
(たしか『ハムレット』にも出てきたはず)
あんまりにもピッタリで大喜利的で
"上手い!座布団2枚!"ってなりました笑。

それにしてもさっきマクベス
情けなさすぎる、って書いたんですけど、
それとアクションがすごいのは別です。
映画並みのアクションでした。
観てて思わず興奮します。
ここまで派手な一体一の剣でのアクションは
劇場ではあんまり観たことないと思います。
観客も大興奮。分かる。

そしてアクションが派手なことと比例してか、
より舞台全体が現代に近いこともあってか、
何故か、戯曲よりも所々が遥かにグロい...。
最後なんて、マクダフが全身血まみれで
マクベスの首じゃなくて
心臓持ってくるんですよ...。
まだ首の方がマシだよ...。
絶対その返り血、戦いそのものってよりも
心臓取り出したからじゃん...。服の無駄...。

まあ、そもそもとして劇の出だしから
舞台真ん中に死体が積み重なってて、
その隙間から魔女が出てくるっていう、
何とも目を背けたくなるような演出だったし、
魔女は死体の指は食べるわ、
赤ちゃん(人形?)の首はもぐわ、
豚の丸焼きから赤ちゃん人形取り出すわで、
(恐らくマクダフの例えです)
今更、って感じはするんですが。
それに、『マクベス』は

"舞台一面血まみれ"

になってこそ成功だって、偉い誰かが言ってた....
ような気もします。(図書館よ開け)
(記憶が間違いじゃなければヤン・コット)

あ、それと、ヤン・コットといえば、
歴史のシステムとシェイクスピアの考察が
思い出されるんですが、
(めちゃくちゃ乱暴に言うと
"歴史は繰り返す(円環する)"ってやつです)
ストラットフォードのやつもそうだったように、
今回もそのケがありました。

マルカムが新しい王になって宣言をした後に、
魔女が1人出てきて、

"When shall we three meet again?"
(この次3人またいつ会おう?)

って言って終わるんですよね。
考えてみれば、魔女が3人で会って、
予言したからマクベスの悲劇が起こった、
と考えられなくもないので、
そうなると、次彼女たちが会うときは、
"マルカムに同じ悲劇が起きるのか?"
って思わず考えちゃいます。

しかも今回マルカムは、アジア系の方で、
(やっぱり西洋系の方とは
体格差がまだまだ無くならないですね。
戦争の話なのでどうしても体格は
イメージの半分ぐらい占めてしまいます。
徐々に差は小さくはなってはいるんですが...。
あと100年ぐらいしたら、
西洋系もアジア系も無くなりそうですね。)
しかもキャラ的に、
インテリ系のへっぴり腰坊ちゃん、
って感じだったので、
失礼なのは百も承知で
なんかちょっと不安になります笑。

ただインテリっぽさと、どうしても
商売上手なイメージある中華系の雰囲気が
相まって、上手く立ち回りそうな
印象も無くはない...。

新しい王を迎えたスコットランドに対して

"この後どうなるんだろう"
"この王でほんとに大丈夫なのかな"

...ってここまで考え込んじゃうってことは、
私もまんまと劇に巻き込まれてますね笑。
観客もマルカム戴冠の時は拍手喝采でした。
どこか異国の他人事ってよりは、
完全に自分事というか。
さすが「若者のための『マクベス』」。
色々考えるポイントはあったけど、
なんだかんだで完全に目論見にハマってます笑。

あとちょっとだけだけど、🇬🇧の国旗が
どんな風に出来たかも知ることが出来るという、
勉強面でのオマケ付きです。
有難いような、学生的には
ありがた迷惑なようなって感じですが笑。
ここまで詰め込んで1時間半!
あっぱれとしか言えません。凄い。

コンパクトに纏まった『マクベス』も
それはそれで味が濃くて面白かったです。

と!言うわけで!今日は今からNTLiveの
欲望という名の電車(列車?)』を
頑張りたいと思います。
まずはAmazonプライムで映画観てから!
(セコいですが、そうすれば英語辞書片手に
7〜8時間も頑張らなくていいので笑)

まだストラットフォードの
アテネのタイモン』も
ロイヤル・バレエ団の『アナスタシア』も
観てないのでサクサク行かないとです。
さすがにちょっと疲れました。でも頑張る。
だってもったいない!笑。