感想日記

演劇とかの感想を書きなぐってます。ネタバレはしまくってるのでぜひ気をつけてください。

A Midsummer Night's Dream『夏の夜の夢』

2020/08/21
シネ・リーブル池袋 f:id:monsa_sm:20200822140625j:plain



今週末は『リア王』『ハムレット』...、
と絶対にシェイクスピア週間に入った
NTLiveアンコールですが、
明らかに混むはなるたけ避ける!
そして忙しい人に譲る!コロナ禍だし!
みたいな偽善たっぷりの心持ちで
ゆっくり感想を書こうと思います笑。

とはいうものの...なんというか、

"Shall we their fond pageant see?      
Lord, what fools these mortals be!"
(さあ、バカげた芝居を見てみましょう、
ね?人間ってなんてバカなんでしょう!)

このパックのセリフをまんま体現したというか、
感想とか批評とかこの劇に持ち込むやつの方が
まじで大バカなんじゃね、と思うレベルで
"楽しい!"が全開の乱痴気舞台だったので、
書くのがはばかられるというか、
超面倒臭いというか(漏れでる本音)...

...てな感じで本当は頭空っぽにして、
ただただ「バカみたいに」笑いながら
観るのが正解だとは思うんですが、
備忘録的な感じで、蛇足ってことにして、
書いていこうと思います笑

というわけで、

【蛇足】(多分かなり長くなる笑)

出だしのアテネの演出に関しては
インターバルのインタビューで、
演出のニコラス・ハイトナーさんが
The Handmaid's Tale侍女の物語』を
パクったってことを白状(笑)されていたんですが、
そもそも『侍女の物語』を観てないので、
ちょっとググって調べてみたら、

なんかどっかの世界線で、
女性が子どもを産める年齢になると
子孫を残すための道具「侍女」として
支配されるみたいな、小説原作のドラマ?

らしくて、Huluで観れるっぽいです。
確かに、『夏の夜の夢』も、出だしから
ゴリゴリの男性優位社会で、ハーミアが

"父が選んだ男と結婚or死ぬか尼寺"

みたいな大変な状況になってるし、
シーシアスの妻、ヒポリタはヒポリタで、
戦争の"戦利品"的な扱いを受けてるので
(それで多分ガラスケースに入ってたのかな)
重なるといえば重なるかも...。

葬式を思わせるレベルの真っ黒な衣装に、
ほとんど直立不動で進行する会話劇で、
"あれ、悲劇だっけこれ?"レベルで暗い。
賛美歌も冒頭で流れてるので、
伝統とか保守ってる感じも凄いあります。

オリヴァー・クリス(シーシアス)さんが
普通にカッコ良く見えるって相当ですよ(失礼)
...この方顔は普通にイケメンなのに、
すっとぼけた役似合いますよね...。
愛すべきバカ役というか...。

"こんなとこでこの人が終わるわけがない"

と甚だ失礼なこと思ってたら、やってくれた笑
だよね。終わんないよね。安心したわ笑笑。

あ、そういえば大体の舞台で
シーシアス役はオーベロンも
ヒポリタ役はティターニア(タイターニア?)も
兼ねることが多いみたいです。
まあ、アテネか、森かの場面の違いだけで、
劇中の立ち位置はほぼ一緒だし、
そもそもそんなに俳優さんを用意してらんない
ってとこが多分本音なんじゃないかな笑。

それに、そういう風に同じ俳優さんを通して、
2つの役がダブルで重なると、

"Methinks I see these things with parted eye
When everything seems double.
"
(今までのことが別々に目にうつってるのかな、
何だか全部がダブって見える)

っていうハーミアのセリフの"double"とか

"If we shadows..." (僕達役者は影法師...)

で始まるパックのエピローグとかと
いい感じに呼応して、

=人間の世界=理性=伝統...
=妖精の世界=狂気=自然...

の対比とかが激しくなるし、
夜の乱痴気を通して、つまり、
人間の世界の"影"の写しである妖精の世界の、
なんかもう全部どうでも良くなる、
解放感抜群の一連の騒ぎ
を通して、
頭でっかちだったアテネのシーシアスが、
"法律とかもうどうでもいっか" みたいになるのも
すんなり飲み込めるなあ、 と思いました。

実際に、シーシアスが考えを変える
少し前の部分で、エコー音声で上から、
妖精の世界でオーベロンとして
狂気に浮かされた時の音声が
ぼやあって降ってくるので、
演出にもこういう意図はあったんじゃないかな。

それで、考えを変えるのがシーシアスだから
それを"原作よりももっとハッキリ
考えを変えた原因を分かりやすくして、
とにかく楽しくて観やすい劇にしちゃお!"
みたいな感じで、騙し騙される関係の
オーベロンとティターニアを
そっくりそのまま入れ替えたのかな、と。

(だから別に原作にある問題点とか、
ジェンダーうんぬんとか、差別的だとか、
そういうのを考えてやったわけでは、
ないのかな、と思う。ただただ色んな人に
楽しんで欲しかったのかな、と)

(あと単純に、喜劇って、女が強くて、
男が情けない方が、面白おかしい気がする。
"笑い"がそもそも秩序とか常識とか
そういうものから外れたときに起こるから、
やっぱ物理的に力があるはずの
男がコケにされた方がウケるっていうか...。
あんま書くと差別になりそうなんで、
この辺でやめときます...ムズい)

別に関係性を入れ替えなくても、
考えが変わった理由はわかるんですが...
てか正直なところ、もうキャストに会って
決めたんじゃないかと疑ってます笑笑。

ティターニア(兼ヒポリタ)の
グェンドリン・クリスティーさんが、
もう素晴らしすぎて...(言葉も出ない...)
Oh...Goddess...マジで女神…ヴィーナス…
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(やたらめったら画像を並べる)
(全部公式Twitter@NationalTheatreからです)

この肌!この髪!この目!このスタイル!
完全に動くギリシア彫刻です。やべえ。
どっしり重い肉感溢れるこのスタイルやべえ。
やべえ...(語彙力はとうに死んだ)
手足を動かすときの存在感の質量と
圧力の大きさに目がクラクラします。
こんなん目の前にいたら無条件で膝まづくよね。

照明に肌が映えて軽く発光してるように
見えるし、のドレスとの対比も綺麗....。
この女王がきゃらきゃら茶目っ気たっぷりに
笑ったり、悠然と命令したりするんですよ...。
つよくない...?とうとすぎるよね...?

対するオーベロン(オリヴァー・クリスさん) f:id:monsa_sm:20200822154201j:plain
(これ『十二夜』の画像だけど。右側)

...うん、よっしゃいっちょだまされてこーい!
なんだろうね、イケメンなんだけど。ほんと。
この2人並べられたら、自然と原作の関係性を
逆転させたくなる衝動に駆られるよね。
実際に台本先か、キャストが先かは知らんけど。

とにかく1番あーだこーだ批評家とかが
口を酸っぱくしてツッコミそうなところは(言い方)
こんなとこかなあ、と思います。

結論:どうでもいいじゃん、楽しいから!

そもそも取り違えの劇だし、
人間の愚かさを、の愚かさを、
ぶっちゃけていうと、

"する相手がそこにいること"

が1番大事なことなので、
相手は誰でもいい、んだと思います。
そんな、道徳とか、倫理とか、常識とか、
アイデンティティとか考えてる場合じゃない。

パックの登場シーンとかで結構、
そういうの感じますね。
パックも、もれなく人間の世界で
シーシアスにお仕えしてて、ダブってるけど、
着てる真っ黒いスーツを、パックになる時、
マントみたいにバッと脱ぎ捨てちゃう。 f:id:monsa_sm:20200822160617j:plain

めっちゃパンクな衣装ですよね。
(そういえばこのパック役の
デヴィッド・ムアーストさん、
空中演技の経験が今回までなかったらしい。
それであの演技?!アクロバット?!?
経験者だとずっと思ってました。スゴすぎ)

多分熱中症みたいにぼーっとしながら、
楽しいこと、気分がいいこと、面白いことに、
ずるずるずるずる流れていくのがベースにあって、
そこを喜劇的ととるか、あるいは逆に
全てが曖昧でいっそ残酷な状況ととるか、
で演出が分かれるのかな、って感じです。

でも、今回みたいにド派手に喜劇にするなら、
それだったら、いっそ盛大に"取り違え"たほうが、
思いっきり"ありえない"ほうが、
めっちゃ笑えるに決まってます。

そういうのもあってか、
劇の途中ではハーミアとヘレナが、
ライサンダーとディミートリアス
パック達のイタズラで同性同士惹かれる
みたいな小ネタもちゃんと挟んでます笑。

(しかもハーミアとヘレナがいい感じになる時、
何故か男子陣が喧嘩を放り出して、
"おい見ろよ!"ってなるっていう。
アイドルの絡みじゃないんだからさ笑笑)

あとそういう恋人たちのがメインの話なので、
ベッドを組み合わせて話の舞台にしてたのは
すごく象徴的だなーと思います。
実際、シーシアスのベッドから
展開される、みたいな演出が、
ロイヤル・シェイクスピア・カンパニー
映画版『夏の夜の夢』っぽく施されていました。
(たしか、少年のみたいな入れ子構造だった…)

そのベッドを組み合わせデスクみたいにして、
ピットに自由自在に組まれる変形囲み舞台で
観客はアテネの森の木々にされるという笑笑。
観客の使い方がうますぎます笑笑。
(あとは2階席とか3階席に、
さっきのパックの画像みたいに、
イルミネーションがついていて、
星の役割にもなってて素敵でした)

そういう森を、パックとかが移動する時に、

"Move. You are in the way. Move.
Now, come on...I don't have all nights
."
(ちょっと、どいてよ、邪魔だよ。
ったく、ほんとにさあ、時間ないのに...)

ってぶつくさ言いながらピットを
行き来するのマジで笑いました。

通り終わったあと

"Thank you. Londoners..."
(ありがと。それにしてもロンドンの連中か...)

って不満たらたらって感じの時に、

"I'm Irish."
(俺アイルランド人なんだけど)

って返したオッサンと私もハイタッチしたい!
ナイスツッコミ。流石英国。
観客との一体感がスゴすぎです。

衣装しかりでかなり現代化していて、
(ボトム達なんてツナギででてきます)
今っぽいやり取りとか結構組み込まれてました。
月の満ち欠けの確認のカレンダーを
観客のスマホ借りて確認したり、
パックが"LOL(www)"ってネットスラングしたり
1番びびったのはハーミアとヘレナの
超絶激しい罵りあいの場面かな。

"I'll knock your FUCKING teeth out!"
(あんたのそのクソ前歯折ってやんよ!!)

ってハーミアの...セリフ...。
みんなシェイクスピア
ふぁっきんきいたことある...•́ω•̀)?
わたしはないよ...びっくりしたよ...
めっちゃわらったけど...、

シェイクスピア研究者は眉をひそめそうな
そんなレベルで色んな新しいセリフが
盛り込まれてました笑笑笑笑笑笑。
大丈夫これ?誰かキレてない笑笑??

正直このぐらい派手にしっちゃかめっちゃかな
もう爆発するぐらいの興奮感が
劇の中身にあってる気がしたので、
わたしはすごく好きでした。

でも多分シェイクスピア劇のリズムの美しさ?
みたいなのが一番上手かったのはパックかな。
あんまり英語できないんですけどなんとなく。

とくに、ボトムをロバにしたあとの、
(ロバの耳と髪の毛の質感の一体感やばかった)
太鼓のドンドコ音と一緒に、パックが語るとことか、

"うわあ、歌ってるみたいで耳が楽しい"

ってなりました。しかも空飛んでるしね。
ほんとに空飛ぶ妖精の声聞いてるみたいで。
(布だけど。こういう空中ブランコ的なのは
ピーター・ブルックの、演劇史的に多分
超超超有名な舞台のパクリです。)

あと多分?北部訛りなのも
ちょっとアウトローな生意気な雰囲気で
めちゃくちゃ良かったし、
日本語字幕でそれを出すためなのか
「〜っす」ってなってたのも好きです。

...どうせ日本で日本語でシェイクスピアやる時、
もともとの韻文の美しさなんて
どう逆立ちしても出ないんだから、
このぐらい弄っちゃえばいいのに、
って思うのは素人考えなのかなあ。

とにかく舞台やってる最中に、

"Plays are boooooooooring!"
(劇なんてちょーーーーうつまんないじゃん!)

って言っちゃうニヒルなパックが好きです笑。

あとはもうね...
オーベロンとボトムだよね...笑笑笑笑笑
何あの2人タイミングが最高すぎる笑笑。
間のとり方とか表情の変化だけで
笑いを取るのが上手すぎです。

個人的に好きだったのは、
初っ端オーベロンに告白されて、
にへらっと破顔するボトムとか、
あとボトムが妖精の1人に
"手を貸してほしい"って意味で

"Give me your fist."
(直訳:君の拳をちょうだい)

って言うんですけど、
アブノーマルなセックスでfist(拳)使ったりも
したりするらしい........?(詳細は不明)ので
(辞書にあった。ガチで。オーレックス英和)
そのためか、オーベロンが

"ええええええ?!俺の目の前で堂々と浮気?"

って顔でボトム見たりするのとか
やばかったですね。腹筋が。
ある意味お似合いだよお前ら笑笑笑笑笑

オーベロンのストリップに、
2人揃ってナイトクラブ並みのダンス、
それをパジェント(山車)型の舞台で
1周ぐるっとお披露目したり(すんなよ笑笑)
あとは泡風呂ね笑笑笑笑笑笑笑笑。
お風呂からあがった時ビビったけど、
今度は衣装さんがふざけてました。
泡でできたTバックみたいなパンツって
きっと衣装さんが酔っ払って作ったんだね笑笑

あとBarber Shop Chroniclesでもお馴染みの
ボトム役のハメド・アニマションさんは、
声がいいし歌が上手い笑笑。謎にだけど笑笑。

そして歌、といえば、
全体的に歌詞入りの曲が使われてたんですが、
いちいち選曲に含みがありすぎて
腹筋が死にそうでした。

オーベロンとボトムのキャッキャウフフは
ビヨンセLove on Topで、有頂天だし
オーベロンの魔法が解けた時は、
ジミー・クリフI Can See Clearly Nowって笑笑。
そりゃ"今はハッキリ見える"でしょうよ。
魔法解けたんだから。

もう選曲にある意味悪意しかありません笑笑。

あと、それ以外の音楽とか音響も結構凝ってて、
例えばさっき書いたみたいなエコー音声とか、
ディミートリアスライサンダー
パックがそれぞれの声真似して迷わせるときの
3D感ある音声とか、
ボトム達の劇が余興に選ばれた時は、
オーディション番組の優勝みたいな
チャララララーン🎶みたいな音だったり、
あと一番酷かった(最高だった)のは、
『ピラマスとシスビー物語』の
面白おかしい前口上のダンスシーンで
何故か映画『プラトーン』の
弦楽のためのアダージョを荘厳に使うという。

視覚と聴覚と、一応は古典劇だよな、っていう
色んな認識のズレで半端なく笑えます。
天才かよ。大好き笑笑笑笑笑笑笑笑。

あとはもうグッダグダの劇中劇の
(なぜか子供用の音が出るおもちゃの多用。
ここでも、視覚と聴覚から腹筋攻めてくる)
くだらなさとボトムの身体能力の高さ
ただただ笑いが止まらないという。
パントマイムといっていいのかわかんないけど、
何通りもの死に方を身体だけでみせるって
ただもんじゃない。凄すぎる...。
あと壁役の方の"クソめんどいんだけど"感が
最高でした笑笑。お疲れ様です笑笑。

シーシアスのツッコミもなかなか良くて

"It's immersive."
(わー臨場感たっぷりー)

って、臨場感たっぷりの劇の劇中劇に対して、
劇の登場人物が言うというカオスな状況。
すっとぼけ顔(失礼)と相まって最高。
そしてそれを"何言ってんだこいつ"顔で見る、
仲直りした奥さんヒポリタ良いね。
一生旦那の手綱握っといてください。よろ。

あ、仲直りしたみたいです。この夫婦。
仲直りしきらない演出も結構観るんですけど、
今回ははっきりハッピーエンド

最初のどん詰まりの悲劇の時に
オーベロンがヒポリタに向かって

"Come, my Hippolyta, what cheer, my love?"
(おいで、ヒポリタ、明るい顔をして)

って言った時は完全にガラスケースの中で
いやいや作り笑いしてたんですが、
夜が明けた狩りのシーンで
(要はオーベロンとしては、
ティターニアに完敗した後で)

"Uh...come? Hippolyta?"
(あっと..お、おいで?ヒポリタ?)

って思春期の男子かお前は、
レベルのドキマギ感で言うシーシアスには
"しょうがないわね"ぐらいの姐さん感で
手を繋いでたので完全仲直りでした。
この短いセリフで笑い取れるって、
流石クリスさん(褒めてます)

最後に観客全員で、夜に浮かぶ満月みたいな
ボールをポンポンしながらダンスしてたの
めっちゃ楽しそうだったなあ...。
とにかく観客との一体感が魅力的すぎる
最高の舞台でした。

最後のパックのエピローグ?も

"So, good night unto you all.
Give me your hands, if we be friends,
And Robin shall restore amends
"
(それでは、みなさん、おやすみなさい、
お手を拝借願います。パックがお礼を申します)

のところで、普通に考えると、
拍手を要求してるんですが、
今回は逆さ釣りになったパックが、
観客の人の手を取って繋ぐっていう、
まさに「お手を拝借」状態。
今回に関しては日本語の勝利だと思います。
「拍手」の意味にも取れるし、
実際「拝借」してるし。

観たのは昼間だったけど、
夜に観たらほんとにいい夢が観れそうな
そんな舞台でした。

まあ多分シェイクスピアの研究者の方とか
そういう方からすれば"ええええ(ドン引き)"
な場面もあるんでしょうけれど、
舞台芸術としては本当にワクワクしました。
でも『夏の夜の夢』の翻案作品って
銘打った方が良かったのかも...しれない…?

どっちにしろ最初に書いたとおり、
難しいこと考えて観る方が「大バカ」なので、
"人間ってバカだけど楽しいじゃん!"
ぐらいの軽い気持ちで楽しく観ました。最高。

...来週からはね、『リア王』に
初めて日本語字幕を観ることになる『コリオレイナス
という内容からして超ヘビーなあれに、
演技は最高だけど確かあんまり
スカッとはしなかったカンバーバッチの、
でも爆笑はできる矛盾だらけの『ハムレット』が
勢揃いで待ってるので...。
ウワア、タイヘンダア(他人事)