感想日記

演劇とかの感想を書きなぐってます。ネタバレはしまくってるのでぜひ気をつけてください。

『Macbeth』

2020/05/11
Youtube
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(画像は全て公式Twitter@stratfestより)




オンライン授業の合間に頑張って観ました。
先生も手探り感が強くて辛いです。(›´ω`‹ )

まあ、それは置いておくとして、
考えてみると『マクベス』観たのは、
なんと、これが初めてです!
去年、4000字のレポートまで書いたのに...。
(これは自慢ですが笑、A+貰いました。
"『Macbeth』の性と悲劇性"っていう
訳わかんないタイトルだったのに。
ひたすらに女性性について言及するレポート。
何かが先生のツボに入った模様...笑)

それにしてもこの『マクベス』、
出だしが、ほぼホラー映画ですね。
何あの魔女、こっわ。
しかもなんか既に人吊るされてるし、
魔女に至っては見た感じ、血で満たされた器
持ってない?持ってるよね?何に使うの?
鍋なの?魔女鍋なの?そうなのね?
という謎のテンションになりました。

『タイタス・アンドロニカス』と並んで、
血だらけというか血浸しの印象が強い劇ですが
最初っからぶっ飛ばしすぎです。
そういうのは、嫌いじゃないよ...!
衣装に関しても全体的なトーンが赤茶色なので
明らかに狙ってます。血だらけひゃっほう。

あと、なにぶん、レポート書くレベルまで
一応読み込んだ戯曲だったので、
勝手な固まったイメージをもっていて、
そのために、マクベスが出てきた瞬間に、
"若い!あとなんか普通にイケメン!"
と物凄い失礼な感想を持ちました。
マクベス夫人もかなり可愛らしい見た目。
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ダンカン殺しの辺りまでは、
なんかちょっと兄妹っぽくも見えました。
双子の兄妹というか...。
さすが一卵性夫婦と呼ばれるだけあります。
互いに以心伝心するかのような、
たっぷりとした長い沈黙のやり取りが、
その雰囲気を増していた気もします。

しかしながら、マクベス夫人
可愛らしい見た目とのギャップが凄いです。
ド迫力の演技。"強い"演技です。
なんだかバックに金色の蛇が見えるよ...。
だからこそ、後半、狂った時の
やつれて、全ての輝きを失ってしまった様子は
本当に別人みたいでした。凄すぎ。

そのマクベス夫人の狂気に理由付けするような
マクベスの演技も圧巻ですね。
魔女3人に相談、というか予言を
マクベス自らがわざわざ聞きに行ったシーン、
完全に目が据わってました。
それまではうろうろするような、
弱々しさすら感じる視線だったのに。
確かにこれは、発破をかけるマクベス夫人が
要らなくなるわけだわ、と思います。

その続きのシーンで、マクベス
8人の王とバンクォーの亡霊を見る時、
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胸に赤い血のようなもので
十字みたいなのを描かれて、
吊るされるのなんかも、なかなかに印象的です。
まるで新手のカルトの生贄みたいに見えます。
まあロミオが"運命の慰みもの"ならば
マクベスは"運命の生贄"、ってとこでしょうか。
王権が交代するために、
というよりそれをスムーズに行うために
一時的に緩衝材にされた、というか。
マクベス』が仮に悲劇なのだとしたら、
それは、彼が準備と自覚不足のまま、
王権交代の円環の和にぶつけられたことが
哀れだからなんじゃないかなあ、と思ってます。

詳しく書こうとすると
今見ると拙いレポート全引用しなきゃなんで
ざっくり書いてぼかしますが、
そもそもマクベスがダンカンを殺すのだって、
王になる!という目的よりも、
どちらかというと自己認識的な面があります。
男性的自己認識として殺人を犯すってことです。
しかも、それをほぼ唆されてやるので、
マクベスに、王たる自覚、つまり、
歴史に王として加わる自覚、
あらゆるものに心許せず、
安心の眠りすら失っても構わないという覚悟、
なんてものあるわけが無いんです。

これだけだと"なんだマクベス馬鹿じゃん"
と鼻で笑いそうになるんですが、(酷い)
マクベス』がやっぱり悲劇的なのは
マクベス自身がその事を悟るからです。
それが、この超有名で
超超カッコイイセリフのとこです!大好き!

To-morrow, and to-morrow, and to-morrow,
Creeps in this petty pace from day to day,
To the last syllable of recorded time;
And all our yesterdays have lighted fools
The way to dusty death. Out, out, brief candle!
Life's but a walking shadow, a poor player,
That struts and frets his hour upon the stage,
And then is heard no more. It is a tale
Told by an idiot, full of sound and fury,
Signifying nothing.

"消えろ、消えろ、束の間の灯火!
人生は歩く影法師、哀れな役者だ!"

の一連の部分です。長いので略。
というか単純に上手く訳せない。無理です。
(松明などを吹き消す演出が多いのも、
あるシーンが始まる時
闇から浮かび上がるように照明がついて
次のシーンに移動する時にパッと消えるのも、
この部分のイメージとかけてるのかな、
と思います。
でも、個人的にはキャンドルの炎というより
あぶくのような印象が強かったです。)

"緩衝材"って、我ながらいい表現だった
ような気がしないでもないんですが、
使った後にポイって捨てられちゃうみたいに
"人生なんて意味がない!"って
多分、人間が到達できる最大限の絶望と脱力に
マクベスは到達するので、
不条理的な悲劇性という意味で、
やっぱり『マクベス』は悲劇なのかな...、
なんて個人的には考えています。

それにしてもこのシーンのマクベス
本当に凄かったです。
それまでの気迫も何もかもが
一旦ごっそりと抜け落ちたかのような
空っぽな目から、徐々に真理を掴んでいき、
どうせこの人生に意味なんて
最初から無いのだから、
いっそどうとでもなればいい!
の境地まで至るのが手に取るように分かる...。
ハムレットの"let be(なるようになれ)"とは
また違うベクトルの向きです。
ハムレットの方にはちょっと希望があるけど、
マクベスの方はただひたすらに絶望と空虚さ、
そしてそれに伴う自暴自棄な感じしかないです。
まさに運命に弄ばれた"哀れな役者"。

それにしてもマクベス役のIan Lakeさん、
割と目で演技するタイプの方だなあ、と
この映像観て思いました。
舞台を生で観てる訳じゃないので
なんとも言えないんですが、
映像映えもしそうだな...と思いました。

あ、ついでに、さっき"王権交代の円環の和"、
とか訳わかんないこと書いたんですが、
最後の魔女の演出にちょっと現れている気が
しないでもなかったです。

最後の最後には、マクベスが殺されて
次の王が誕生します。
しかも今度はちゃんと自覚も血筋も
申し分ない人が王になるのはなるんですが、
ここで、最初に出てきた魔女が出てくると、
何となくマクベスの物語が
どんどん繰り返される気がします。
要は、"初めに戻るよ!"のループ的な。
まあ誰が王になろうと、次の王に殺されようと
歴史その物がループなのは明らかなので、
めちゃくちゃしっくりくる演出でした。

それにしてもここまで笑いが少ない
シェイクスピア劇って...。

"I pray you, remember the porter."
(お願いがあるんだけど、
この門番を覚えといてよね!)

って言ってた門番が懐かしい...。
マクベス』で笑えるのは
戯曲で読んでも君だけだったよ!って感じです。
正直どっちもどっちな復讐の応酬を
なんだかんだでやりとげる、血みどろの
『タイタス・アンドロニカス』よりも
マクベス』の方が遥かに凄惨な印象がある...。
しかも今回は最後にループ感もあるので
マジで救いがないです。辛すぎます。

...次は大好きなロマンス劇の『テンペスト』を
配信して頂けるらしいので、
それを楽しみに待ってようと思います。
めっちゃいい舞台だったけど、
精神的にちょっとやられました。完敗。