感想日記

演劇とかの感想を書きなぐってます。ネタバレはしまくってるのでぜひ気をつけてください。

『ハムレット』

2020/02/07
アートシアター 上野小劇場
12:00から 自由席
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一枚目の写真は友人の後ろ姿です。
なんと今回は一緒に観にいきました!
というより2人以上だと割引がきいたので
無理やり連れていった感が
ないといえば...どうなんだろう...。
でも楽しかったみたいです。良かったあ...。
一緒に観てくれてありがとね。
誰かと一緒に観劇なんて
去年3月に親と一緒に行ったっきりです。
感激!(かけてません。断じて。)

実は第1回公演から観続けている
演劇ユニットWillow's。
シェイクスピア専門の劇団です。
たぶん明治大学の学生さんが多いと思います。
数少ない演劇学専攻がある大学です。(理論の方)
正直、演技力に関しては
突出しているとかいう訳では無いのですが
(ただレベルは普通に高いです)
演出が毎回とても面白いので
なんだかんだで追っかけている状態です。

今回はなんと『ハムレット』!
第3回目にして
いきなり難関行っちゃった感じです。
まあ第1回は『ロミオとジュリエット』だったので
今更難関も何もないんですが。

脱線しますが今のところ
ハムレット』で好きなのは
ベネディクト・カンバーバッチですね。
たぶんこれが1番"爆笑"出来るハムレット像です。
色々脚本の問題点、というか
思い切った繋ぎ方をした脚本だったので
戯曲至上主義の方々は
色々文句仰ってますが
とにかく面白い!
私、根本的に喜劇の方が好きなんだと思います。
ただ、クローゼット・シーンに関しては
蜷川幸雄演出、藤原竜也主演のやつが
今のところ1番いいと思います。
ザコン感が滲み出てますね。
野村萬斎さんは化け物感が強い。
芝居をけしかけて
クローディアスが動揺したのを見たあとからの
一連のシーンの彼は圧倒的だと思います。
あとちょっと日本語だけど韻文っぽさがある。
さすが留学されてただけあります。
(残念なのはなかなか生で観られないことです。
上にあげた3つも全て映像で視聴です。)

というわけで『ハムレット』に関しては
少々目が肥えている?訳ですが
それにしても演出がやっぱり面白い。
今回は"将棋"が1つのテーマでした。
まあ、王将を詰ませる
つまり身動き不可の状態に追い込むゲームですので
ぴったりといえばぴったりです。
ただなかなかそこから演出に使おうぜ!
とは普通ならないと思います。
すごい。

舞台にはいつも通り開場直後から
役者陣が座っていて
あとは小さな木枠で囲まれた
大きさの違う直方体がオブジェをなしていました。
積み木みたい...いや将棋の駒って言った方が
今考えると表現としては適切なのかな
とは思うんですが
まあイメージとしては
積み木でいいと思います。
今回はこれを動かしながら
セットをその場で作っていくわけですね。
最初の門番のシーンはバッサリカットして
将棋の駒を番の上に並べていく
ハムレット王とハムレット
という演出だったので
余計そういう印象が強くなります。
王様と王子が将棋ってちょっとブラックですね。
世代交代を予感させるというか。
このシーンをいれるなら
ラストにフォーティンブラスを入れるべきだと
個人的には思いますが。
まあただ
ハムレット王→クローディアス→ハムレット
(ただしハムレットに王権が移行した瞬間
ハムレットは死亡)
と言う構図で
最後にノルウェー軍のフォーティンブラスが
高らかにデンマーク王権をかっさらっていくのは
ハムレット王からハムレットに至るまでに
沢山の血が流されることを考えると
不条理感が強くなるので
カットした方が、シンプルな悲劇として
わかりやすいとは思います。
ラスト関連してもうひとつ。
意外とラストのホレイシオのセリフが
フォーティンブラスがいなくても
深い意味を持って響いたことは
新しい発見でした。
ハムレットのセリフの中に
観客に向かって"この劇のだんまり役か、
観客じゃないか"という趣旨の発言があるので
これを上手く使って
観客をデンマークの国民風に見立てた演出でした。
ありよりのありですね。

今回は、小劇場という空間もあってか
一国家の壮大な劇、というよりは
デンマークの王家ではあるけれど
家庭劇の色合いが強かったように感じます。
太宰治の『新ハムレット』の冒頭に
「人物の名前と、だいたいの環境だけを、
沙翁の『ハムレット』から拝借して、
一つの不幸な家庭を書いた。」
という文があります。
そういう印象が強かったです。
「この『新ハムレット』などは、
かすかな室内楽に過ぎない。」
この太宰の「室内楽」という表現
ピッタリだと感じました。
積み木でテーブルと
それとテレビのようなものを作った舞台空間は
家族の団欒が行われるリビングを連想させます。
劇の進行に合わせて
そのセットか少しずつ崩れてゆくわけですから
「一つの不幸な家庭」というわけです。
現代にも通ずるところがあります。
宣伝チラシの中で
ハムレット役の方が小さな部屋で
鍋を食べているのも、そういうことだと思います。
そのため今まで観たどの『ハムレット』より
静かな『ハムレット』でした。
言葉を選ばないとすると
劇の外枠をスケールダウンさせたというか。
そのため内容と相まって緊密さが上昇し
笑いは少なかったように感じます。
というより、とても笑える空気ではないです。
そこに関しては好き嫌いが分かれると思います。
2時間半程度に収めようと
大胆にカットしているせいもあり
余計スピーディーに感じたのかもしれません。
セリフもかなり早口で
噛む回数がいつもより
格段に多かったように思います。
そこは改善の余地がありそうです。

改善といえば
改善、するほどではないんですが
少し気になったのが
レアティーズとハムレットの決闘が
将棋だったのに
結局レアティーズがハムレットの顔に
毒薬をぶっかけるという
なんか将棋そっちのけの演出だったことですね。
そのあとの混乱の中で
将棋盤が崩れるのは
クローディアス王ひいてはハムレット王子の
崩御が連想されるので良かったのですが。
せっかく将棋をここまで引き継いだので
フェンシングの代わりにそれを利用するなら
利用しきって欲しかったように思います。

将棋の駒ともとれる積み木で特に良かったのは
オフィーリア狂乱のシーンです。
積み木を積み上げている様子は
賽の河原を連想させて
これから"川で"溺れて"死んで"しまうことを
視覚的に連想できるようになっていました。
極めて日本的な演出ではありましたが。
あと、オフィーリア役は男性の方だったのですが
これは多分ジェンダーに配慮してだと思われます。
「尼寺へいけ!」は
多分に女性差別的なニュアンスを含むことも
あるそうです。
今年来日するRSCが上演する
じゃじゃ馬ならし』も
男女逆転のキャスティングだそうです。
今は色々難しいですね。

最後に全体を通した演出に関して。
確かヤン・コットが
シェイクスピアはわれらの同時代人』
という著者で記述していたと思うのですが
この劇の(少なくともメインの)登場人物は
常に監視されているのだと言います。
だから監視が仕事の門番のシーンから始まるし
デンマークは牢獄だ」し
プライベートな場面も
常に影でポローニアスのような人物が覗いている。
それに影響を受けたのか
全くのオリジナルなのか
舞台の構造上なのか
判断はつきませんが
演じていないキャストはすべて舞台脇に寄り
じっ、と演じているキャストをみていました。
"監視の劇"という印象がありました。
一つの家庭劇であると同時に
やはり王家の物語なのだと感じます。
常に国民とか、誰かに見られている状態です。
私的な問題が、常に
公的な問題になってしまう状態です。


...やはりこの劇団の演出は
考えさせられることが多いので
面白いですね。
次回は夏、『ヴェニスの商人』だそうです。
一応は喜劇に分類されるこの劇
どう立ち上げていくのか
今から楽しみです。
あと、誰かと演劇観たあとに
ああだこうだ話すのってめっちゃ楽しいです!
また一緒に観に行ければ良いなと思います!